当院の運動指導にみえているスポーツ、ダンス・バレエ愛好者で、
腰椎分離症や腰椎すべり症の方がいらっしゃいます。
症状は、年齢や病気の進行度合い、身体的条件や状態によって様々です。
前回は、「分離症とは何か」「成長期に気を付けなければいけないこと」をテーマに書きました。
↓
「腰椎分離症 1 (成長期の腰痛)(10代の腰痛に気を付けてほしいこと!!)」
https://www.ikejimasekkotsuin.jp/column/1523/
前回の「結論・まとめ」です。
★腰椎分離症は成長期に起こる疲労骨折です。
骨折ですから、安静と固定で治ります。
ただし、超初期、初期、進行期のうちに疲労骨折と診断され、
適切な治療をしないと、治らない可能性もあります。
適切な治療とは、安静と固定、更に適切な運動療法です。
終末期になってしまうと、
分離した骨が偽関節になってしまいますので、分離症そのものは治りません。
★疲労骨折や分離症は、痛みがある場合と、痛みがない場合があります。
終末期に入ってしまった、痛みがない分離症やすべり症は、
基本的に医療機関を受診しないことに問題はありません。
★しかし、成長期の超初期、初期、進行期の分離症は、
必ず専門の医療機関で検査を受け、適切な治療をする必要があります。
★その理由は、
疲労骨折を治すことができる時期を逃してしまうからです。
★成長期(特に小学生)が「腰が痛い」と2回訴えたら、
是非、専門の医療機関(整形外科)を受診してください。
★終末期に入る前に、疲労骨折や分離症をみつけて、
適切な治療を受けることは、とても重要なことなのです。
★当院の運動指導では、スポーツ、ダンス・バレエ愛好者の
分離症になる前、
分離症になってしまった場合は、
骨癒合が確認されてからのアスレティックリハビリテ―ション、段階的にスポーツ活動に復帰する時期に合わせて、
分離症の再発予防のため、
更に終末期の分離症は疼痛管理を含めて、
筋力強化や柔軟性の回復、正しい身体の使い方などを中心に指導しております。
今回は、「分離症のメカニズムと運動療法の考え方」について書いていきたいと思います。
(またマニアックな内容になってしまいましたので、
興味のない方は、後半の運動療法のところだけお読みください)
まず、脊柱の機能解剖について、少し復習してみましょう。
★脊柱の機能解剖と腰部損傷のメカニズム
一般的に「背骨」と言うと、一つの骨のことを指している場合と、背骨全体を指している場合があります。
この一つの骨を「椎骨」と言い、背骨全体のことを「脊柱」と言います。
首の部分は7個の頚椎、背中の部分は12個の胸椎、
腰の部分は5個の腰椎、お尻の部分は仙骨と尾骨から形成されています。
脊柱の一つ一つの動きは小さいのですが、脊柱全体で大きな動きをします。
屈曲(前屈) 110度
伸展(後屈) 140度
側屈(横に曲げる)75~85度
回旋(横に回す) 90前後
身体の軟らかい方は「えっ??それだけなの??」と感じたでしょう。
でも、身体の硬い方は「自分はそんなに動かない・・・」と感じた方に分かれると思います。
実際に身体を動かしているときは、
脊柱の動きと股関節の動きが加わっていますので、もっと大きな動きが出るのです。
★では、頚椎、胸椎、腰椎の各部分では、どれくらいの動きがあるのかを見ていきましょう。
頚椎: 屈曲(前屈)40度、伸展(後屈)75度、側屈35~45度、回旋45~50度
胸椎: 屈曲(前屈)45度、伸展(後屈)25度、側屈20度、回旋35度
腰椎: 屈曲(前屈)60度、伸展(後屈)35度、側屈20度、回旋5度
頸椎は、各方向によく動きます。
胸椎は、回旋は大きいのですが、伸展(後屈)は1番から10番までは動きが小さいのが特徴です。
腰椎は、屈曲(前屈)が大きく、回旋が小さいのが特徴です。
▲脊柱の可動域は、参考文献により、また個人によって違いがあります。
★分離症は、腰椎の伸展(腰を反らせる)、回旋の動きが多いスポーツに多いと報告されています。
★ニュートラルゾーン、エラスティックゾーン、カップリングモーションの概念は、
分離症を理解するうえで、また運動療法をどのようにしていくかを考える際に重要です。
★カップリングモーション(coupling motion)とは
運動時の脊柱は、椎間板や椎弓などの椎骨間の連結における特性から、
回旋と側屈などの複合された動きが起こると考えられています。
上位胸椎(Th1~7)では、回旋すると同方向に側屈します。
下位胸椎(Th7~12)では、回旋すると反対方向に側屈します。
腰椎 L1/2~L3/4では、回旋すると反対方向に側屈します。
腰椎 L4/5~L5/S1では、回旋すると同方向に側屈します。
▲回旋と側屈の複合された動きの方向や椎骨の分け方は、文献により異なります。
★脊柱を屈曲(前屈)すると、下位胸椎と腰椎の前方要素である椎間板に負荷が加わります。
脊柱を伸展(後屈)すると、脊柱の後方要素である椎間関節に負荷が加わります。
★関節運動において骨、関節、靭帯などの関節構成体に負荷が加わらない動作範囲をニュートラルゾーン、
関節構成体に負荷が加わる動作範囲をエラスティックゾーンと定義されています。
★エラスティックゾーンでの負荷が繰り返し加わることで、
骨、関節、靭帯などの関節構成体の機能が破綻すると考えられています。
★脊柱を屈曲(前屈)する動作でエラスティックゾーンでの負荷が繰り返し加わると、
下位胸椎と腰椎の前方要素である椎間板に負荷が加わり椎間板ヘルニアなどが起こりやすくなります。
★脊柱を伸展(後屈)する動作でエラスティックゾーンでの負荷が繰り返し加わると、
脊柱の後方要素である椎間関節に負荷が加わり分離症などが起こりやすくなります。
★分離症は、腰椎の伸展(腰を反らせる)、回旋の動きが多いスポーツに多いと報告されています。
★分離症の原因は、エラスティックゾーンでの負荷が繰り返し加わることや、
カップリングモーションによって椎間関節に負荷が繰り返し加わることで疲労骨折をすると考えられます。
★例えば、ダンス・バレエのアラベスクなどで後ろ脚を上げる際、
常に腰を反らせて腰を捻じる使い方をしていると、
椎間関節を常に圧縮(圧迫)していることになります。
★成長期の骨に繰り返し繰り返し、その外力が加わることで、疲労骨折が起こりやすくなるわけです。
★ニュートラルゾーン、エラスティックゾーン、カップリングモーションは、
分離症を理解するうえで、また運動療法をどのようにしていくかを考える際に、重要です。
★各関節の主要な機能と代償
★各関節の役割には、可動性(mobility)と安定性(stability)があります。
各関節で優先されるべき可動性(mobility)と安定性(stability)は、
下から交互に積み上がっています(Joint by Joint Theory)。
距骨下関節は安定性、距腿関節(足関節)は可動性、
膝関節は安定性、股関節は可動性、
腰椎は安定性、胸椎は可動性、
中・下位頸椎は(C3-7)は安定性、上位頸椎(C1-2)は可動性、
肩甲胸郭関節は安定性、肩甲上腕関節は可動性
★これらの可動性(mobility)と安定性(stability)に関する理論をJoint by Joint Theoryといい、
その機能が逆転した場合、代償動作が起こることがあります。
★分離症に関係する重要な関節の安定性と可動性は、
股関節の可動性、腰椎の安定性、胸椎の可動性、
距腿関節(足関節)の可動性、肩甲上腕関節の可動性と考えられています。
これらの安定性と可動性は相互に関係しあっています。
例えば・・・
★股関節や胸椎の可動性が低下(動きが悪い、硬い)していると、
腰椎の安定性が悪くなり、腰椎の過活動が起こりやすくなります。
★ダンス・バレエで説明すると、
股関節や背中が硬い、正しいターンアウトができていないと、
腰椎の安定性が悪くなり、腰椎の過活動が起こりやすくなります。
★腰椎の安定性が悪いと、
股関節や胸椎の可動性が低下(動きが悪くなる、硬くなる)が起こりやすくなります。
★ダンス・バレエで説明すると、
体幹を支える筋力が弱い、正しい引き上げができていないと腰椎の安定性が悪くなり、
股関節や胸椎の可動性が低下(動きが悪くなる、硬くなる)が起こりやすくなります。
これらの安定性と可動性は、相互に関係しあっています。
★また、距腿関節(足関節)の背屈制限があると、
膝関節、股関節、腰椎(特にL2/3)に負担がかかります。
★ダンス・バレエで説明すると、
プリエが踏めない、ジャンプの着地で膝関節、股関節、腰椎(特にL2/3)に負担がかかります。
★肩甲上腕関節や胸椎の可動性が低下(動きが悪い、硬い)していると、
腰椎(特にL4/5)に腰椎の伸展(腰を反らせる)の負荷が加わります。
★ダンス・バレエをやっている若年者は、身体が柔らかい人が多いので、
筋力強化や、正しい身体の使い方を習得すれば問題を解決できる場合が多いです。
★しかし、若年者でも、胸椎が硬い、足関節の背屈制限がある場合もありますし、
中高年の方では、肩甲上腕関節や胸椎の可動性が低下(動きが悪い、硬い)している場合が多く、
筋力強化や、正しい身体の使い方を習得すると同時に、柔軟性の向上を目指す必要があります。
★病期に応じた治療の流れ
★超初期・初期では、スポーツの休止、装具療法、積極的な運動療法、
★進行期では、スポーツの休止、装具療法、ストレッチ、
2,3カ月後に疼痛が消失し、MRIやCT検査で骨髄浮腫の消失や骨癒合の確認をする。
★骨癒合までの期間は、片側分離で約3カ月、両側分離で5カ月以上と報告されています。
骨癒合の傾向または確認がされたら、スポーツ用装具、アスレティックリハビリテ―ションを開始し、段階的にスポーツ活動に復帰。
★終末期の場合は、骨の成熟度によって異なります。
★C-stage(小学生)、A-stage(中学生)の分離症は、
「終末期」または「痛みがない」としても、すべり症に移行するリスクが高いので、
専門の医療機関(整形外科)での検査や、必要があれば運動療法を継続することが重要です。
★分離症の再発率は、26.1%と報告されています。
胸椎や股関節が硬い、体幹筋が弱い、腰を反らせたり捻じるスポーツをやっている方は、継続的な運動療法が必要です。
★終末期の成人は、分離症があることで腰椎の回旋角度が増加しています。
痛みに対する疼痛管理と、筋力強化、正しい身体の使い方の習得、柔軟性の向上などの運動療法を継続することが重要です。
★運動療法の考え方
★ニュートラルゾーン、エラスティックゾーン、カップリングモーションは、
分離症を理解するうえで、また運動療法をどのようにしていくかを考える際に重要です。
★分離症に関係する重要な関節の安定性と可動性や、代償動作の改善。
股関節の可動性、腰椎の安定性、胸椎の可動性、距腿関節(足関節)の可動性、肩甲上腕関節の可動性。
これらの安定性と可動性は相互に関係しあっています。
★分離症の運動療法は、痛みが激しい急性期には安静と固定(装具療法)が必要です。
急性期の疼痛が緩解して来た1~4週間後からニュートラルゾーン、胸椎や股関節の可動性の改善などの運動療法を行います。
もちろん、骨癒合が確認されるまでは、装具を付けた状態で運動療法を行うことが重要です。
★骨癒合までの期間は、片側分離で約3カ月、両側分離で5カ月以上と報告されていますので、
モチベーションを保ちつつ、運動療法を継続することが重要です。
★当院の運動指導では、スポーツ、ダンス・バレエ愛好者の
分離症になる前、
分離症になってしまった場合は、
骨癒合が確認されてからのアスレティックリハビリテ―ション、段階的にスポーツ活動に復帰する時期に合わせて、
分離症の再発予防のため、
更に終末期の分離症は疼痛管理を含めて、
筋力強化や柔軟性の回復、正しい身体の使い方などを中心に指導しております。
では、実際にどんなことをやっているのか、その一部をご紹介します。
体幹トレーニングをするとき、腰椎のねじれや、骨盤をゆがませないようにすることが重要です。
体幹トレーニングをするとき、腰椎のねじれや、骨盤をゆがませないように、
背骨から骨盤まで棒やストレッチポールを乗せてやっています。
立位での体幹トレーニングをするときも、腰椎のねじれや、骨盤をゆがませないようにすることと、
更に背骨を上に引っ張って伸ばすことが重要です。
後脚を上げるトレーニングをするときも、腰椎のねじれや、骨盤をゆがませないようにすることと、
更に背骨を上に引っ張って伸ばすことが重要です。
当院では、他にも色々なエクササイズやトレーニングを指導しています。
詳しく知りたい方は、こちらを参考にしてください
↓
(10)「腹横筋、骨盤底筋群を強化しよう!!」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/4849459.html
(24)「背骨の動きをよくしよう 1 」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/7258623.html
(102)「ハムストリングスのストレッチ7(ジャックナイフストレッチ2)(膝の伸ばし方)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/43688978.html
(103)「ハムストリングスのストレッチ8(ジャックナイフストレッチ3)(身体の硬い方必見!継続は力なり!!)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/43744445.html
(104)「膝の伸ばし方、後ろ脚を上げるためのトレーニング 1 (バレエ)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/43884585.html
(105)「膝の伸ばし方、後ろ脚を上げるためのトレーニング 2 (バレエ、5番ポジション)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/43950797.html
(115)「後ろ脚を上げるためのトレーニング 3 (体幹トレーニング)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/45783633.html
(155)「背骨を伸ばすストレッチ 6 と、背中のトレーニング 1(座位)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/48905348.html
(156)「背骨を伸ばすストレッチ 7 と、背中のトレーニング 2(立位)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/48906963.html
(163)「背中のトレーニング 4(小中学生バレエダンサー、身体が柔らかい方用)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/49145542.html
(24)ケガのリハビリに体幹トレーニング!!(ケガの時期、身体の状態、筋力のレベルに合わせたリハビリ)
https://www.ikejimasekkotsuin.jp/column/1067/
(72)「背中を反らせる(胸椎伸展)エクササイズ」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/35931878.html
(81)「ハムストリングスのストレッチ 4 (胸椎と腰椎の動きをよくしよう!)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/37647552.html
(162)「背中のトレーニング 3 (小中学生バレエダンサー)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/49112797.html
(243)「腸腰筋のストレッチ (身体が硬い人でもできる)」
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/52093841.html
参考文献:臨床スポーツ医学Vol.36、2019,10
★病期に応じたゴール設定(杉浦史郎他)
★体幹運動療法の基本概念、Joint by Joint Theory とその実際(本橋恵美)
★運動療法と体幹バイオメカニクス(後藤強)
★骨癒合を目的とした装具療法と運動療法(畠山健次)
★終末期分離症の疼痛管理と装具療法・運動療法(岩城光一他)
★腰椎分離症(疲労骨折の)再発(酒井紀典)
いけちゃん
いけちゃんのblog 1 目次
http://blog.livedoor.jp/ikejimasekkotuin/archives/46271926.html
いけちゃんのblog 2 目次